『願わくば、この書簡が無用のものとなれば……』

そう綴られた文が、クシナダ皇女・セラの執務室に残されていた。そこには、ブレビス以外の敵……第三勢力について示唆されていたが――
「アマツは海に浮かぶ島国……その地形はまさに天然の要塞、古より外敵を寄せぬ守りの要となっています。しかし、海には力を増した海賊が、そして、海を挟んだ向こうには大陸国家「翡(ひ)」が存在します。

そして……アマツ人でありながら良からぬ望みを抱く志無き者も、わずかながら存在します。これを捨て置けば後々苦戦するでしょう。セイト様、どうかお気をつけ下さい。

ここクシナダでも『志無き者』の所業が目立ちつつありますが、そちらは私の方で対処いたします。セイト様には海の者、翡の者にご留意頂きたく存じます。
まず海の者、彼女らは独特の価値観を持っています。

アマツ国土ではなく近海に眠る神器、貿易船が運ぶ貨幣を好んで強奪するのみです。が、油断はなりません。有事の際、我が国を救うとされるかの神器も、彼女らの狙いとなり得るからです。

あの神器が他国の者の手に渡れば、民はアマツ国を失います。存在が漏れたが最後、執拗な妨害の果て更なる国家動乱を招き得ますので、厳重に神器をお守り下さい。万一彼女らと相見えるときには、一切の容赦もなきよう……。
次に翡の者。海を挟んで相見えるかの大陸国家は虎視眈々とアマツの国土を狙っております。

現在翡の国の間者が侵入した話はありませんが、財力に富む彼ら・彼女らがアマツ国の民を惑わせ、自らを囲わせることも考えられます。翡の者がセイト様のお命を狙いうる存在であることをお忘れなきよう願います。
いずれも虎視眈々とアマツの隙を狙う者たち、長い旅路で何らかの縁ができるかもしれませんが、信を置きすぎるのは感心しません。今このクシナダでも民を惑わす者たちが現れつつあります。願わくば早々にこれらを退け、皇子のお力になることを――」
……皇女はそこで何を思ったのか、書簡はそれきり途切れていた。その後、皇女の憂慮とはまた違った形で現実のものとなる。ブレビス軍事侵攻という想ってもみない形で……。ブレビス侵攻の際、セラはクシナダに新羅教(しんらきょう)を広めると同時に姿を消したと言われているが――その真意は、まだ誰にも分からない。
次回の舞台紹介は、おっぱい妖狐・イヅナが本作の『熱い』部分をご案内します。

セイトを取り巻く強き女性たちの美事なバトルシーンをご期待下さい。

第五回『日常』を見る。